H29試行調査の問題文はこちら(32Mと重いです)
このシリーズの基本コンセプトは、こちらをご参照ください。
解答番号2
『御成敗式目』から、鎌倉時代の日本における「会議」の「合意形成の原理・原則」を読みとらせる問題です。2つの異なる見解とその理由を考察して、参考文中の〔ア〕〔イ〕に入る選択肢を選ばなければなりません。理系脳だと題意がつかみにくいです。この問題形式には慣れておく必要があります。
参考文の該当部分は次のとおりです。
「私たちは、資料の中の〔ア〕という部分が重要であると思った。なぜなら、〔イ〕である。」
従来のセンター試験と異なり、〔イ〕が〔ア〕の根拠になっているため、〔ア〕と〔イ〕を同時に考えていかなければなりません。
〔ア〕の選択肢は、
Ⅰ 道理の推すところ
Ⅱ 権門を恐れず
です。
〔イ〕の選択肢は、
a 正しい判断を行うためには、武家社会の慣習に従うことが大切だから
b 正しい判断を行うためには、多数決の原理に従う必要があるから
c 正しい判断を行うためには、身分が上のものに遠慮しないことが必要だから
d 正しい判断を行うためには、律令法の規定に従うことが大切だから
です。
この問題を解くための最短手順は、以下のようになります。
①資料から選択肢に対応する部分を見つける
資料にある、正しい判断を行うために大事だとしていることを列挙します。
・「親疎あるべからず」=血縁関係に左右されてはならない
・「好悪あるべからず」=好き嫌いに左右されてはならない
・「ただ道理の推すところ」を「出すべき」=武士社会の慣習や道徳に従って発言すべき
・「心中の存知」を「出すべき」=心のなかで思っていることを発言すべき
・「傍輩を憚らず」「詞を出すべき」=仲間に遠慮しない
・「権門を恐れず」「詞を出すべき」=権勢のある家柄に遠慮しない
⇒〔イ〕の選択肢が、aとcに絞られる
以上です。なぜならば、解答の選択①~④に、aとcの両方が含まれているのは①しかないからです。これで、〔ア〕〔イ〕を合わせた、解答番号1の答えは、①であるということが導き出されました。
それでは、この問題で正答に至るために必要な知識は何でしょうか。受験生の教養として「親疎」「好悪」の意味は分かると仮定すると、上の下線部分は資料の注で説明されているので、必要な知識は「道理」の意味だけということになります。文章は平易なので、この問題は実質的には、「道理」の意味を「武家社会の慣習」と「多数決の原理」と「律令法の規定」の3つから選べという問題に過ぎないのです。
「道理」は鎌倉時代を理解するうえで非常に重要な概念なので、多くの指導者は力を入れて生徒に教えていると思います。私も重ね重ね強調して、道理の意味と重要性を伝えます。ただ、『一問一答』では、問題の出し方の都合だと思いますが、「道理」はその他の必要用語として問われています。データの示準は固定しておくことが重要なので、こういう場合でも、私の示準では、この問題はその他の必要用語まで習得していないと解けない問題であるとします。なお、この問題の正答率は69.3%と高いので、多くの受験生は道理の意味を身に着けていると考えられます。
この問題の期待値は次のようになります。
【期待値表 解答番号2】
|
資料読める |
資料読めず |
用語習得せず |
0.25 |
0.25 |
基本用語習得 |
0.25 |
0.25 |
標準用語習得 |
0.25 |
0.25 |
その他の必要用語習得 |
1 |
0.25 |
【期待値表 累積】
|
資料読める |
資料読めず |
用語習得せず |
0.75 |
0.5 |
基本用語習得 |
1.25 |
0.75 |
標準用語習得 |
1.25 |
0.75 |
その他の必要用語習得 |
2 |
1.25 |
以下の拙著では、センター試験でも同様の調査をしていますので、これからの調査結果とそちらと比較してみれば、『一問一答』という指標を用いて、センター試験に必要な知識レベルと共通テストに必要な知識レベルがどれだけ変化したのかが明らかになっていくことでしょう。
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